遺言書作成マニュアル

遺言書の形式


 普通形式遺言は3種類。どの形式でも法的効力は同じです。

  1. 自筆証書遺言
     本人が自筆して作成する遺言書。 民法改正により遺言書の規定が見直されて自筆証書遺言が作りやすくなり、遺言書に添付する財産目録についてはパソコンで作成することも可能になった。 2020年7月12日までには法務局に保管すれば裁判所での検認も不要になり、 はじめて作るときに遺言原稿を専門家に作成してもらいさえすれば、自筆証書遺言のデメリットはほとんどなくなることになる。 もちろん今から作る自筆証書遺言を法律施行後に法務局に保管することも可能なので、 高額な費用をかけて公正証書遺言にする必要はほとんどなくなったと言っても過言ではない。 内容は秘密にできる。

  2. 秘密証書遺言
     署名捺印があればパソコンで作成することができる(専門家による代書も可)。 封をした遺言書を公証役場に持参し、2名の証人立会いのもと、本人が作ったものであることを公証してもらう。 公証役場の手数料11,000円と証人2名の日当が必要。内容は秘密にできる。 保管、検認、執行等については、自筆証書遺言と同じ。 パソコンや代書で作成した場合は、検認の前に誰かに封を開けられてしまうと自筆証書としても扱ってもらえなくなり無効となってしまうので注意。

  3. 公正証書遺言
     公証役場で公証人に作成してもらう遺言書。 初期の認知症などで後に有効性を争うことになったとしても、公証人が有効と判断して作成した遺言書が無効になることはまずない。 公証役場の手数料10万円前後と証人2名の日当が必要。書類の収集や作成等と公証人とのやり取りを専門家に依頼する場合はその費用も。 内容は秘密にできない。

遺言書の構成



自筆証書遺言の最低成立要件


  1. 遺言者が15歳以上であること
  2. 遺言者に遺言能力があること
  3. 遺言者本人が全て自筆で作成したこと
  4. 遺言の内容が書かれてあること
  5. 作成年月日が書かれてあること(西暦和暦どちらでも可)
  6. 遺遺言者の氏名が書かれてあること
  7. 押印されていること(認め印や三文判でも可ですが、実印で押印しましょう)

効力が生じる内容


  1. 相続分の指定
  2. 相続人の廃除
  3. 遺産分割方法の指定と分割の禁止
  4. 相続財産の処分
  5. 相続人の身分に関する効力(認知)
  6. 遺言書の執行に関する効力
  7. 相続人相互の担保責任の指定
  8. 遺言執行者の指定または委託
  9. 遺留分減殺方法の指定

無効になってしまう例


  1. 達筆すぎて読めない
  2. 相続人の名前を愛称(『いっくん』『まこちゃん』など)で書いている
  3. 書いた日付をきちんと書いていない(『平成30年1月吉日』など)
  4. 関係者にしか通用しない書き方をしている(『青森の土地を相続させる』など)
  5. 法律用語でない言葉で書いている(『〇〇を受け取ってください』など)
  6. 相続分を明示していない(『大部分を長男に』など)
  7. 『ここからここまでは長男、あとは次男』などと、適当な地図やイラストで描いている
  8. 夫婦で連名の遺言書(ひとりずつ作らないと無効)
  9. 自筆証書なのに本人が書いていない(代筆や口述筆記は無効)
  10. 認知症が進んでから書いた

推定相続人(法定相続人)


 自分は法定相続人だからと安心している人がいますが、誰が相続人になるのかは法律で決まっているわけではありません。 誰が相続するかは、遺言書がある場合は遺言書の内容に従って、遺言書がない場合は推定相続人全員で協議た結果作成される遺産分割協議書の内容によって決定されます。 推定相続人とは、遺言書がなかった場合に遺産分割協議に参加しなければならない者のことです。 遺言書がある場合でも推定相続人全員の合意があれば遺言書の内容と異なる分割も可能ですが、一般的に有利な相続人が賛成することはありませんので、揉めることになっても一旦は遺言書の通りに分割されることになります。 確実に誰かに相続させたい、または、確実に相続人になりたいとお考えであれば、遺言書を作っておく(おいてもらう)必要があります。

配偶者は常に推定相続人になり、配偶者以外の者は次の順位で配偶者とともに推定相続人になります。 上位順位に該当者がいた場合はそれ以下の順位の者は推定相続人になれません。

 第1順位:子(すでに死亡している場合はその子、孫、ひ孫…)
 第2順位:親(すでに死亡している場合は祖父母、曾祖父母…)
 第3順位:兄弟姉妹(すでに死亡している場合はその子である甥姪まで)

※「子」とは血縁のある実子と養子のことです。配偶者の連れ子は含まれません。「親」には養子縁組した養父養母も含まれます。
※かっこ内は「代襲者」です。代襲者は死亡者に代わって推定相続人になりますが、遺言の内容は代襲できないので注意が必要です。 養子縁組の前に生まれていた子は代襲者にはなれません。

相続割合について


 財産をどのように分けようが本人の自由です。遺言書で本人が分割方法を指定しておくことが基本です。 遺言書がない場合、または、遺産分割協議が話合いでまとまらない場合は、法定の相続割合を目安に何を分けるのかを協議することになります。 遺言書がある場合、または、遺産分割協議が調った場合は、法定の相続割合の出る幕はありません。

【法定の相続割合】

推定相続人が、配偶者と子の場合、配偶者が2分の1、子が残りを均等に分ける
推定相続人が、配偶者と親の場合、配偶者が3分の2、親が残りを均等に分ける
推定相続人が、配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が残りを均等に分ける

推定相続人が死亡していてその子どもが代襲する場合は、代襲者は親の相続分を均等に分けます。 推定相続人がひとりでも欠けた状態で行われた遺産分割協議は無効です。

遺留分


 推定相続人には最低限保証された相続割合があり、それを「遺留分」といいます。 推定相続人は、遺言書の有無にかかわらず、自分の相続分が下記の遺留分に満たない場合、多くもらった人に対して不足分を請求することができます。

 2020年7月までには改正民法の配偶者保護が施行され、結婚20年以上の夫婦なら遺言で譲り受けた住居は相続財産(遺留分の計算対象)から除外されます。 それにより、配偶者は住居を離れる必要がないだけではなく財産の配分が増えますので、 遺言書があるかないかで配偶者の老後が大きく左右されることになります。

【遺留分】
相続人が、配偶者と子の場合、配偶者が4分の1、子は4分の1を均等に分ける
相続人が、配偶者と親の場合、配偶者が3分の1、親は6分の1を均等に分ける
相続人が、配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者が2分の1、兄弟姉妹にはない
相続人が、配偶者のみの場合、2分の1
相続人が、子のみの場合、2分の1
相続人が、親のみの場合、3分の1
相続人が、兄弟姉妹のみの場合、なし

特別受益と寄与分


【特別受益】
 相続人のうち一部が特別受益(資金の援助や名義預金など)を得ていた場合、被相続人の合理的意思を推測し、相続人間の公平をはかるため、その特別受益分を加算して具体的相続分の算定を行います。 これを「特別受益の持戻し」といいます。 特別受益の持戻しは、相続人間の公平を図ると同時に被相続人の合理的意思を推測した算定方法ですから、 被相続人が持戻しを希望しない場合は、遺言で持戻しを行わないこともできます。 これを「特別受益の持戻しの免除」といいます。

 2020年7月までに施行される改正民法では特別受益の持戻しは過去10年間分に限定されますので、 特定の相続人に財産を多く渡したい場合は、早めに生前贈与しておけば持ち戻しの対象ならず遺留分減殺請求の対象にもなりません。

【寄与分】
 介護等で特別の寄与があった場合でも、その寄与分は親の扶養義務を理由に原則認められません。 寄与分を考慮してあげたい場合は、遺言でその分を増やした分割にしてあげるといいでしょう。

資料の収集・作成


 資料の同封は法的要件ではありませんが、不正確な内容によって無効にならないよう、資料を見ながら正確に記載するようにしましょう。 また、無効を疑われないための対策としても資料を同封しておくことはとても有効です。 公正証書遺言にする場合は作成時に資料の提出が必要になります。

  1. 遺言者の戸籍謄本(生まれてから現在まで)
  2. 相続人の戸籍謄本
  3. 相続人以外に財産を遺す場合はその人の住民票
  4. 遺言執行者の連絡先
  5. 遺言者の印鑑登録証明書
  6. 不動産の登記簿謄本、固定資産税評価証明書
  7. 預貯金通帳のコピー(金融機関名、口座番号が記載されているページ)
  8. その他の財産がわかる資料のコピー(ゴルフ会員権、自動車車検証、宝石や絵画の鑑定書、貸金庫やお墓の資料など)
  9. 相続関係説明図 特に既定の形式はありません 家系図のように書いてあれば大丈夫です
  10. 財産目録 遺言で触れる、不動産、金融資産、動産、祭祀財産の一覧です
  11. 筆跡がわかるような資料(公的な申請書等のコピーなど)
  12. 医師の診断書(遺言能力があることを証明するため)
  13. 遺留分放棄の許可を受けた相続人がいる場合はその許可書

文面の作成


 遺言書は、開封された後に不備が見つかっても、もう修正することはできません。 作るときに、法律や判例に照らして矛盾がなく、意思を正確に反映し、実現が裏付けされたものにしておくことが絶対条件になります。 民法が改正されて求められる対策が変化し、施行のタイミングもバラバラで難しい時期でもありますので、「遺言書作成サポート」のご利用をおすすめします。

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遺言文面の書き損じ


 書き損じの修正には決められたルールがあり、その通りに修正すれば法的には有効です。 しかし、遺言書が開けられたときにはもう自分は何の弁解もできないのですから、疑いの余地は残すべきではありません。 書き損じたらページ丸ごと書き直すことをおすすめしています。

遺言執行者の指定を推奨します


 遺言書で指定したとおりに確実に手続きをしたければ、遺言執行者を指定しておきましょう。遺言者は遺言書に記載することでしか遺言執行者を指定できません。 遺言執行者が就任すると、ほかの相続人は遺言の執行を妨げる行為ができなくなり、勝手に財産を処分したとしても、その行為は無効になります。 相続人全員の同意で指定と違う分割をしたとしても、遺言執行者が後で認めなければ、その分割も無効になります。 預貯金や不動産の手続きの際は、相続人全員のハンコは不要になり、執行者単独で手続きできるようになりますので、妨害されることがなくなります。 執行時に起こる様々なトラブルに対処できなくては意味がありませんので、遺言執行者は専門家(行政書士や弁護士等の法律系国家資格者)に依頼しておくのがベストです。

民法が改正されて遺言執行に関する規定が強化されました。争族に発展させないために遺言執行の手配をしておくことが如何に重要かということです。

自筆証書遺言の封印と保管


 自筆証書遺言の封印の規定はありませんが、トラブル防止のために、 複数ページになる場合は、各ページにページ番号をふり、ページ左側2か所をホッチキスで留め、全ページの折り目に実印を押します。 封筒の表面に『遺言書 在中』と大きく書き、裏面には『開封を禁ずる この遺言書を遺言者の死後すみやかに家庭裁判所に提出して検認を受けること』、および、遺言書を書いた日付、および遺言者の住所氏名を書き、実印で封印しておけば、間違って開封されることはないでしょう。